「口笛吹いて/重松清」を読んだ
たまーにジワジワ読んでる重松清氏。今回は二子玉川Book 1stでみつけた「口笛吹いて」(文春文庫)について。
こんな5つの短編が入ってる。
・「口笛吹いて」:エースピッチャーとして数十年前地元のヒーローだった晋さんと再会した僕。お互いの立場は逆転していて、難しい商談を成功させようとしている営業マンの上司である晋さんと、その得意先の総務課長というポジションの僕。少年の頃のヒーローは、その後、負けつづけの人生を歩んでいた。もう一度、口笛の吹き方を教えてくれたあの頃のように、胸を張って笑って欲しいと願う僕...。
・「タンタン」:誰からも相手にされず淡々と授業を続ける教師"タンタン"。そんなタンタンが、自分の息子相手に熱血コーチしてる。納得できない生徒の話。
・「かたつむり疾走」:リストラされた父親が再就職先は、"オレ"の高校の隣の倉庫会社だった。クラスメート以上彼女未満の同級生は、母親と私をすてていった父親が不幸になればいいと願っている。ある日、オレの父親が途中下車してスーツから作業着に着替えていることを知った...。
・「春になれば」:産休の臨時教員としてやって来た小学校で、ある少年を注意したことにで、少年に「つぶす」と警告された"わたし"。わたしは数年前子どもを亡くしていた。そんな中、授業参観の日、父母たちの前で少年に暴力教師と言われてしまう...。
・「グッド・ラック」:「もうきっとこれが最後」と妻が出て行ったある日。一人の徘徊老人が家にやって来る。うまく記憶が繋がらない老人に、妻とうまくいかなくなった日々を語り始める主人公...。
どの話も、さりげない日常の中で生まれる、切なくてほろ苦い感情とか重荷とかがうまく描かれているんだけど、個人的によかったのは、表題作の「口笛吹いて」。晋さんの「自分勝手な思い出のために、人を使うなよ。」っていう言葉は、ほんと痛かった。少年時代へのノスタルジアと現実の悲哀というGapに、思いっきり共感。あの頃、成りたかった自分、なって欲しかった自分。他人を尺度にしながら、自分が発した痛い言葉は、結局自分に返ってくる。ともかく、つらいけどどこかあったかい小説だった。
cf. 重松清 読破 List
- 舞姫通信 (1995)
- 見張り塔からずっと (1995)
- ナイフ (1997)
- カカシの夏休み (2000)
- ビタミンF (2000)
- リビング (2000)
- 口笛吹いて (2001)
- 流星ワゴン (2002)
- きよしこ (2002)
- 熱球 (2002)
- 疾走 (2003)
- 卒業 (2004)
- いとしのヒナゴン (2004)
- その日のまえに (2005)
- きみの友だち (2005)
- くちぶえ番長 (2007)
- ブルーベリー (2008)
- みぞれ (2008)
- あの歌がきこえる (2009)
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