「歌うクジラ/村上龍」を読んだ
ひっさびさの村上龍氏の新作長編小説「歌うクジラ」<上/下>(講談社)について。
こんな話。2022年のXmas EveにHawaiiの海底で、グレゴリオ聖歌を正確に繰り返し歌い、1,400年も生きているザトウクジラがみつかった。その100年後の22世紀、人類はついに不老不死のSW遺伝子(Singing Whale)を発見された。で、SW遺伝子は最上位に属する一部の選ばれた人間のみに使われ、最下位や犯罪者には老化を促進する政策が取られた理想社会。そんな22世紀の日本では、文化経済高率化運動により、食事を楽しんだり、敬語を使うといったことがすべて罪悪とされ、徹底的な棲み分けが行われた階層別社会になっていた。もっとも最下層の犯罪者が多く住む九州北西部の新出島で生まれた15歳の少年アキラは、父の遺言に従って、SW遺伝子の秘密が入ったマイクロチップをとある人物ヨシマツに届けるために、新出島から出ることを決断した...。
これ、2005年の「半島を出よ」以来久々となる村上龍氏の長編小説。龍氏が電子書籍の新会社「G2010」設立し、最初は電子書籍のみで先行発売されるなどそれなりに話題になったこの小説で、個人的には早く本として出版されることを楽しみにしていた。で、i-Padといった電子書籍をターゲットに作られた小説ということで、比較的にコンパクトな段落に分かれているので、電車とかでしおりを入れながら読むには適した構成になっている。だた、圧倒的な分量の長編なので相当読み応えがあった。
で、内容のほうなんだけど、ともかく描写は凄まじい。残虐な殺害シーン、嫌悪感を思いっきり感じる性描写とか、ともかく圧倒的にReal。さらに登場する人々(?)も凄まじい。助詞が破壊された日本語を話す反逆移民のメンバー、猿と中国人のDNAを組み合わせて生まれた女性、死に至るような猛毒の液体をにじみ出す特別変種の人間などなど。22世紀の日本では、そんな人々の棲み分けが進んでいるんだけど、この格差を正とした社会の描写が、まじで想像力あふれてると思う。で、先月インドに行ったときに感じたんだけど、インドは現在でも完全な階層別社会。明確な貧富の差がある中で、その階層の中でしたたかに生きている。で、インドの人々はその階層の中で、そのレベルに応じて生活し、そこから上の階層に這い上がるという志向は、あまりないらしい。つまり、スラムや路上で生きる人々は、一生スラムや路上で生きるといこと。この小説は、階層ごとの棲み分けされた近未来社会をBack Groundに、15歳の少年の旅を描いていて、とっても深く堪能できた。
最後に、この小説に書いてあった言葉を。「生きる上で意味を持つのは、他人との出会いだけだ。そして移動しなければ出会いはない。移動がすべてを生み出すのだ。」。結構、いい言葉だなって思った。
cf.村上龍 読破 List
- 限りなく透明に近いブルー (1976)
- コインロッカー・ベイビーズ (1980)
- 69 sixty nine (1987)
- 愛と幻想のファシズム (1987)
- 超電導ナイトクラブ (1991)
- 長崎オランダ村 (1992)
- 昭和歌謡大全集 (1994)
- 五分後の世界 (1994)
- ヒュウガ・ウイルス~五分後の世界II (1996)
- ストレンジ・デイズ (1997)
- イン ザ・ミソスープ (1997)
- 共生虫 (2000)
- 希望の国のエクソダス (2000)
- 2days 4girls (2002)
- 半島を出よ (2005)
- 空港にて (2005)
- 盾 Shield (2006)
- 美しい時間/小池真理子・村上龍 (2006)
- 案外、買い物好き (2007)
- 歌うクジラ (2010)
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