「ハーモニー/伊藤計劃」を読んだ
「虐殺器官」を読んでみて、そのあまりの重厚さと圧迫感にやられてしまったた伊藤計劃氏。で、世田谷中央図書館で借りて読んでみた氏の遺作「ハーモニー」(早川書房)について。
こんな話。21世紀初頭に発生した全世界規模の核戦争による騒乱"大災禍(ザ・メイルストロム)"を経て、人類は、見せかけの優しさと倫理に支配され、高度な医療経済社会"ユートピア"を築きあげた。人々は、従来の政府に代わる統治機構"生府(ヴァイガメント)"の元、健康と人間関係の親密さを至上の価値とする社会に生活していた。そんな真綿で首を絞めるような社会に抵抗するため、3人の少女は餓死することを選択した。 それから13年後。死ねなかった少女"霧慧トァン"は、健全で幸福な筈の医療社会に襲いかかった未曾有の危機に、ただひとり死んだはずだった友人"御冷ミァハ"の影を見たのだった...。
体内に埋め込まれた医療分子"WatchMe"が健康状態を常にモニターし、病気をいち早く発見してくれる。酒や煙草やカフェインは、健康被害を起すということで、排除される。そこで人々は最終的に意思というものを剥奪されていく。そんなだれもが健康で天寿をまっとうできる世界を描いたのが、この長編。あまりに論理的に組み立てられた展開と理論武装が凄い。そんなガチガチのストーリーに、少女達の無垢な感情が入り込んでいて、ジワジワしつつも、イッキに読めてしまった。
で、伊藤計劃氏は、この作品に「私の困難な時にあって支えてくれた両親、叔父母に。」という言葉を遺し、34歳という若さで逝ってしまった。病気のない社会を否定した本を書いて、病気に倒れたことがあまりに悲しい。あらためて、ご冥福をお祈りします。
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