「送り火/重松清」を読んだ
最近ちょっとご無沙汰な重松清氏。三茶のTsutayaで買って読んだ「送り火」(文春文庫)について。
これ、9つの短編からなる小説。それぞれこんな話。借金まみれでどん底の生活の結果、古びたアパートに住むことになった男が遭遇する不可解な出来事「フジミ荘奇譚」、フリーのライターとしてヒット記事が中々書けない女性がホームレスの女性を書いたことで起きた不可解な出来事「ハードラック・ウーマン」、最愛の息子を亡くしてしまった夫婦に届く子供向けのダイレクトメールを描いた「かげぜん」、引越し先でのご近所との関係上とても大事でややこしい公園デビューを描いた「漂流記」、ホーム幅が狭く、転落事故や自殺が多い駅で活躍する駅員を描いた「よーそろ」、パンクのフリーライターとして過激なコラムを執筆していた男を描いた「シド・ヴィシャスから遠く離れて」、女手ひとつで娘を育てた母に反発する娘が、かつて家族で行った遊園地で若かりし日の両親に出会う「送り火」、離婚間近で家を出てしまった男が駅のホームで命を落とした男の幽霊と出会う物語「家路」、そして、富士山が見える霊園を申し込んだ夫婦が出会う人々との物語を描いた「もういくつ寝ると」。この9つの短編が収録されている。
個人的に一番よかったのは、「シド・ヴィシャスから遠く離れて」。薬物の過剰摂取により21歳で死亡したSEX PISTOLSのベーシスト"シド・ヴィシャス"。そんな過激なパンクミュージックのことを描き、過激なメッセージを書いてた男が20年近い年月を経て、パンクバンドのボーカルだった男と保育園の園庭で再会する話から始まるこの話。体制を批判し、体制を否定した男が、当時を振り返り、今の自分の落とし前をつける流れがとてもいい。自分自身も、今でもRockを聴き続けてるけど、あのときに感じた思いを大切にしつつも、どこかで割りきっている。ほんとひとごとじゃないなと思った。
今回の9つの短編に共通しているのは、架空の私鉄"富士見線"沿いに暮らす人々を描いているんだけど、どうも京王線をモデルに描かれていると思われる。自分も学生までは京王八王子駅を使っていたので、とっても親近感がわいた。
一部、ホラータッチな話もあるけど、重松さんの描くファンタジーは、どこか暖かい。こんな異世界な小説もたまにはいい。
cf. 重松清 読破 List
- 舞姫通信 (1995)
- 見張り塔からずっと (1995)
- ナイフ (1997)
- カカシの夏休み (2000)
- ビタミンF (2000)
- リビング (2000)
- 口笛吹いて (2001)
- 流星ワゴン (2002)
- きよしこ (2002)
- 熱球 (2002)
- 疾走 (2003)
- 送り火 (2003)
- 卒業 (2004)
- いとしのヒナゴン (2004)
- みんなのなやみ (2004)
- その日のまえに (2005)
- きみの友だち (2005)
- 小学五年生 (2007)
- カシオペアの丘で (2007)
- くちぶえ番長 (2007)
- 青い鳥 (2007)
- ブルーベリー (2008)
- せんせい。 (2008)
- みぞれ (2008)
- 季節風 冬 (2008)
- あの歌がきこえる (2009)
- 再会 (2009)
- ポニーテール (2011)
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