「光媒の花/道尾秀介」を読んだ
ぼちぼち読んでる道尾秀介氏。ちょっと気になったので、世田谷中央図書館で借りて読んでみた「光媒の花」(文春文庫)について。
6つの話が収録された短編集なんだけど、それぞれの話がそこはかとなくつながってる連作短編集。それぞれこんな話。
・「隠れ鬼」:
印章店を営みながら、認知症の母親とひっそり暮らす男の封印された過去の話。
・「虫送り」:
虫取りに川辺に来ていた小学生の兄妹が、ホームレスの殺害に手を染めてしまった話。
・「冬の蝶」:
ひそかに心を通わせた少女のために少年がついてしまった嘘と淡い約束の話。
・「春の蝶」:
離婚という両親のいさかいのために耳が聞こえなくなった少女の話。
・「風媒花」:
病にふせってしまった姉を見舞うトラック運転手の青年がずっと胸に抱いていた母親に対する葛藤と誤解の話。
・「遠い光」:
自信を失った女性教師と孤独に閉じこもる教え子が徐々に心をひらき、希望を抱いていく話。
6つの話がそろぞれ独立しているものの少しづつ重なっていき、最後は希望に向かってつながっていく連作短編集。一匹の蝶の姿を通じて、人の弱さと悲しさを描きながらも、はかなくも灯りがみえていくというもの。どの話も正直暗く悲惨な話ではあるんだけど、最後の章「遠い光」に向かって希望がみえてくる。で、個人的には「風媒花」がとても痛かった。現実から逃げても逃げられないことにどう立ち向かうということが身につまされた。
それにしても、この道尾秀介さんはうまいなと思う。6つの話を強引につなげるのではなく、それぞれの登場人物とそのかかわり方を作為や技巧を感じさせずに読ませるのは、さすがだと思う。今年は吉田修一さんとこの道尾秀介さんを集中的に読んでいきたいなと思ってる今日この頃です。
cf. 道尾秀介 読破 List
- 向日葵の咲かない夏 (2005)
- ソロモンの犬 (2007)
- カラスの親指 by rule of CROW'S thumb (2008)
- 光媒の花 (2010)
- 短編工場/浅田次郎・伊坂幸太郎・石田衣良・荻原浩・奥田英朗・乙一・熊谷達也・桜木紫乃・桜庭一樹・道尾秀介・宮部みゆき・村山由佳 (2012)
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