「鍵のない夢を見る/辻村深月」を読んだ
ぼちぼち読んでる辻村深月さんの作品。ちょっとひさびさに世田谷中央図書館で借りて読んでみた「鍵のない夢を見る」(文藝春秋)について。
これ5つの短編が収録されているんだけど、それぞれこんなあらすじ。
・「仁志野町の泥棒」:
とあるバスツアに参加した"私"は、バスガイドの女性が小学校の同級生"水上律子"であることに気が付き、疎遠となった小3の頃を思い出す。"優美子"を含め、3人はとても仲良しだったが、ある日「りっちゃん家のおばちゃん、泥棒なんだよ」という噂がクラスで流れ始めた...。
・「石蕗南地区の放火」:
災害や事故の現場を確認し共済金を支払うという町村公共相互共済地方支部に働いている36歳の"私"は未婚で、見合い話をすすめられるなど周囲からのプレッシャーを受けていた。ある日、放火らしい火事が起こり、私は現場へ向かったところ、消防団の"大林"を見かけた。大林とは一度合コンで出会っており、大林からの強引な誘いを受けて、一緒に横浜に行ったことがあったが...。
・「美弥谷団地の逃亡者」:
"私"は携帯のご近所サイトで出会い、落ち込んだ自分を励ましてくれる相田みつをの言葉を教えてくれた"陽次"にひかれていた。そんなある日、陽次と海に来ていた私は、買った水着や服の支払いを私のカードでしようとする陽次にびっくりした。陽次は独占欲が強くいつしか別れたいと思ってる矢先の出来事だった...。
・「芹葉大学の夢と殺人」:
芹葉大学の工学部デザイン工学科に入学し、同じ学科の"羽根木雄大"と出会った"私"は、イラストレーターになりたいという夢をもっていたが、同じように夢を持っている雄大に惹かれるようになった。雄大は、医学部に入って医者になり、その後サッカーの日本代表を目指したいという夢を持っていた。しかし、雄大は何年たっても医学部には合格することはできなかった...。
・「君本家の誘拐」:
大型ショッピングモールに買い物に来ていた"私"は、娘の"咲良"を乗せたベビーカーが近くにないことに気付いた。辺りを懸命に探し、店員や警備員も手分けをして探してくれるが、ベビーカーは見つからない。誰かに連れ去られてしまったのか?と不吉な予感がよぎる。結婚してからなかなか子宝に恵まれず、やっとできた赤ん坊が咲良だった...。
これ、普通に生ているありふれた人々の心にふと魔が差し、転がり落ちていく様を描いた5つの短編。どれも人間関係が都会に比べて濃厚な地方を舞台にし、狭い関係性の中、見栄やねたみや虚栄心がうずまいているものばかり。これが痛い。
特に痛かったのが、「石蕗南地区の放火」。しこりが残る別れ方をした2人が火事を通じて再会し、ギクシャクし、犯人は誰でなぜやったのかと、一方的な猜疑心にさいなまれるというもの。ほんとに痛い。
それにしても、辻村深月さんはうまいと思う。微妙な心情を描くの上手だし、思春期独特の揺れ動く気持ちをうまくとらえていると思う。透明感のある文章に隠された毒。今回もやられました...。
cf. 辻村深月 読破 List
- 冷たい校舎の時は止まる (2004)
- 凍りのくじら (2005)
- ぼくのメジャースプーン (2006)
- ロードムービー (2008)
- 太陽の坐る場所 (2008)
- ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (2009)
- 光待つ場所へ (2010)
- ツナグ (2010)
- 本日は大安なり (2011)
- オーダーメイド殺人クラブ (2011)
- 水底フェスタ (2011)
- サクラ咲く (2012)
- 鍵のない夢を見る (2012)
« 「石神秀幸のラーメンマップ東京(1)」を読んだ | Main | 「CRAZY KEN BAND Tour NAKAYOSHI 2011 from "MUSIC STYLE JAPAN CRAZY KEN BAND"」(WOWOW)を観た »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 「当確師/真山仁」を読んだ(2024.11.29)
- 代官山通信 Vol.168(2024.11.27)
- 「Joker:Folie a Deux/ジョーカー フォリ・ア・ドゥ」パンフレットを読んだ(2024.11.21)
- 「プリンス/真山仁」を読んだ(2024.11.09)
- 「しんがりで寝ています/三浦しをん」を読んだ(2024.11.02)
Recent Comments