「55歳からのハローライフ/村上龍」を読んだ
もう30年近く読み続けてる村上龍さん。世田谷中央図書館で借りて読んでみた「55歳からのハローライフ」(幻冬舎)について。
これ、人生の折り返し点を過ぎた中高年達の5つの連作中編小説。それぞれこんな話。
・「結婚相談所」:
54歳で離婚した"中米志津子"は夫以外の男性とも付き合ってみたいと結婚相談所を入会した。お相手の希望を聞かれながら自分の人生を振り返っていく。そして数回のお見合いした後、ある男性に出会う...。
・「空を飛ぶ夢をもう一度」:
"印藤重雄"は54歳で会社をリストラされ、ホームレスになるのではないかという不安を持ちながら、工事現場の道路整理員として不安定な生活を送っていた。そんな時、ある現場で中学の頃と友達と再会する...。
・「キャンピングカー」:
"富裕太郎"は定年後、夫婦でキャンピングカーで各地を回るのが夢を持っていて、その夢を家族に話すと、妻から反対を受けてしまった。そこで娘からのアドバイスもあり再就職を試みようとしたが、厳しい現実が待っていた...。
・「ペットロス」:
ひとり息子が結婚を機に海外転勤することとなり、"高牧滋子"は前からの夢だった柴犬"ボビー"を飼うことになった。犬を飼うことを夫に理解してもらえない中、公園などに散歩に行っているうちに、さまざまな愛犬家との交友が始まった。そんなある日、悲しい出来事が起きてしまう...。
・「トラベルヘルパー」:
長距離ドライバーだった"下総源一"は退職後、苦しい生活の中、古本屋で本を安く購入し読む日々を過ごしていた。そんなある日、古本屋で同世代の女性を一目ぼれしてしまう...。
どの話も、体力が弱まり、経済的な不安をかかえ、夫婦や子供達との関係もしっくりせず、おりおりに老いを意識せざるをえないという人々が、この生きづらい時代にどうサバイバルしてけばよいかを描いた話。そして最後は、不安定ながらも再出発をはたしていくというもの。以前、同じ村上龍さんは「13歳のハローワーク」という仕事のガイドブックを書いていたが、それとは異なり、1つ1つが小説になっていた。
で、この小説で1つのキーワードになっているのは飲み物。"蜂蜜を入れたアールグレイの紅茶"、"イタリア産の発泡性ミネラルウォーター"、"ドイツ製のミルで自ら豆をひいたコーヒー"、"中国式のガラスの茶瓶に詰めた良質のプーアル茶"、そして"佐世保三川内焼の茶碗で飲む狭山の新茶"...。みなそれぞれに不安を抱えているが、その不安を和らげる象徴的なものとして、飲み物が登場する。なんとなくそんなものなんだなって思った。
自分も中年となり、身につまされる話ばかりだったけど、読んでよかったと思います。
cf. 村上龍 読破 List
- 限りなく透明に近いブルー (1976)
- コインロッカー・ベイビーズ (1980)
- 走れ!タカハシ (1986)
- 69 sixty nine (1987)
- 愛と幻想のファシズム (1987)
- 超電導ナイトクラブ (1991)
- 長崎オランダ村 (1992)
- 昭和歌謡大全集 (1994)
- 五分後の世界 (1994)
- 村上龍映画小説集 (1995)
- ヒュウガ・ウイルス~五分後の世界II (1996)
- ストレンジ・デイズ (1997)
- イン ザ・ミソスープ (1997)
- 共生虫 (2000)
- 希望の国のエクソダス (2000)
- 2days 4girls (2002)
- 半島を出よ (2005)
- 空港にて (2005)
- 盾 Shield (2006)
- 美しい時間/小池真理子・村上龍 (2006)
- 案外、買い物好き (2007)
- 歌うクジラ (2010)
- 逃げる中高年、欲望のない若者たち (2010)
- 心はあなたのもとに (2011)
- 櫻の樹の下には瓦礫が埋まっている (2012)
- 55歳からのハローライフ (2012)
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