「さようなら、僕のスウィニー/大崎善生」を読んだ
ひさびさの大崎善生。三茶TSUTAYAで買って読んでみた「さようなら、僕のスウィニー」(ポプラ文庫)について。
これ、2010年に刊行された「Railway Stories」を加筆修正のうえ改題されたもの。すべての話に列車が出てきて、その列車に乗りながら、遠い過去や記憶を旅していくというノスタルジックな短編小説集で、もう一度読み直してみた。
で、この短編集には「夏の雫」、「橋または島々の喪失」、「失われた鳥たちの夢」、「不完全な円」、「もしその歌が、たとえようもなく悲しいのなら」、「フランスの自由に、どのくらい僕らは、追いつけたのか?」、「さようなら、僕のスウィニー」、「虚無の紐」、「キャラメルの箱」、「確かな海と不確かな空」、そして「神様捜索隊」の11篇の短編が収められてる。
特にひっかかったのはこの6つの話。
・「夏の雫」:
夏休み、中学生の主人公は生物部で飼っているクラゲのために遠くの海まで水を汲みに行く。そんな主人公は同じ生物部の"棚田美香"にほのかに惹かれている...。
すれ違って結局実らなかった初恋だけど、2人の交わらなかった時間がいとおしい。
・「橋または島々の喪失」:
新宿のロック喫茶でバイトをしている主人公は、同じ店で働く女性と同じ列車で帰省することに。そんな彼女は、その店で働く8人の従業員のうち主人公以外の全員と関係をもっていた...。
そんな繊細で理解できない彼女にひかれているんだけど、彼女との距離の取り方がわからないのがちょっとまどろっこしいし、信じられる。
・「失われた鳥たちの夢」:
卵詰まりのメジロを助ける話。
少年の頃、北海道の家でたくさんの小鳥を飼っていた主人公、メジロを助ける主人を不思議に見ている妻と子供が、ちょっと誇らしく思っているシーンがよかった。
・「不完全な円」:
予備校で知り合った女の子との出会いと別れを描いた話。子供が遊びで2人で描く円と自分達の恋愛を重ねていく...。
無限の円周率のこととか、なかなかセンチメンタルな話だと思う。
・「もしその歌が、たとえようもなく悲しいのなら」:
少年の3人ではたらいた万引き。捕まった主人公は、友達に裏切られたけど、友達を裏切ることができなかった...。
大人に殴られ、ひれふし、悔し涙を流す主人公のふがいなさと悔しさがリアルに伝わってきた。しかしこれをきっかけに3人のフォーメーションが壊れたことはなんかわかる。
・「さようなら、僕のスウィニー」:
小さな公園で出会ったスウィニーと過した1週間...。
サラっと生活の中に入ってきて出て行った少女とのノスタルジー。幻想のような1週間とその儚い記憶をずっと引きずってるこの主人公、どこか共感できる。
ひさびさに読んだ大崎善生作品だったけど、あらためて本当に過ぎ去った過去をいとおしく描いてる。抑揚が少ない分、ジワっとこみ上げてくるのがいい。しっかし読み始めるまでタイトルが変更されたのにまったく気づかなかった。そろそろ新しい小説を読んでみたいと思う。
cf. 大崎善生 読破 List
- 聖の青春 (2000)
- 将棋の子 (2001)
- パイロットフィッシュ (2001)
- アジアンタムブルー (2002)
- 九月の四分の一 (2003)
- ドナウよ、静かに流れよ (2003)
- ロックンロール (2003)
- 孤独か、それに等しいもの (2004)
- 別れの後の静かな午後 (2004)
- ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶 (2005)
- 優しい子よ (2006)
- タペストリーホワイト (2006)
- 傘の自由化は可能か (2006)
- スワンソング (2007)
- ディスカスの飼い方 (2009)
- 聖なる夜に君は/奥田英朗・角田光代・大崎善生・島本理生・盛田隆二・蓮見圭一 (2009)
- 存在という名のダンス (2010)
- Railway Stories (2010)
- ランプコントロール (2010)
- ユーラシアの双子 (2010)
- 西の果てまで、シベリア鉄道で -ユーラシア大陸横断旅行記 (2012)
- エンプティスター (2012)
- 赦す人 (2012)
- 孤独の森 <「存在という名のダンス」改題> (2012)
- さようなら、僕のスウィニー <「Railway Stories」改題> (2014)
- ロストデイズ (2015)
- いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件 (2016)
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