「恋愛 コレクションII/吉田修一」を読んだ
ずっと読んできてる吉田修一。そんな中、刊行された個人全集第2巻の「恋愛 コレクションII」(文藝春秋)を世田谷中央図書館で借りて読んでみた。
これ、恋愛をテーマにデビュー作「最後の息子」から芥川賞を受賞した「パーク・ライフ」、書き下ろし「自伝小説II」までの14作が収録され、吉田修一の恋愛小説をイッキに浸りつくせるというもの。それぞれこんなあらすじ。
・「最後の息子」(1997):「最後の息子」収録
ゆったりと本を読んで過ごしたいからと新宿のオカマ"閻魔ちゃん"と同棲し、時々はガールフレンドとも会いながら、気楽なモラトリアムの日々を過ごしている"ぼく"。そんなぼくは、ビデオ日記をを撮り続け、怠惰な生活を続けていた...。
・「グリンピース」(1998):「熱帯魚」収録
半同棲状態の"草介"と"千里"は付き合いだして2年ほどたつが、近頃の草介は千里が自分の彼女であることが恥ずかしいと思っていた。そして、友達の彼女の"椿"のことが気になりだし、椿も自分のことが好きなのに違いないと思い込んでいた。ある日、草介は椿と千里を比較し、千里に対してイライラをつのらせて、わし掴みにしたグリーンピースを思いっきり投げつけてしまう...。
・「日々の春」(2003):「キャンセルされた街の案内」収録
新入社員の何気ない仕草がなにかと気になる先輩OLの話。そんな先輩OLと後輩新入社員の2人が休日出勤して...。
・「24 Pieces」(2007):「キャンセルされた街の案内」収録
親友の彼女と浮気をする。親友を裏切ることと恋人を裏切ることと、どちらがつらいのだろうかという話...。
・「春、バーニーズで」(2002~2004):「春、バーニーズで」収録
"筒井"は、小さな息子"文樹"がいる女性"瞳"と結婚し、父になった。で、 これはそんな主人公の幸せな日常の中に潜むふとした危うさを綴った連作短篇集。筒井は、かつて一緒に暮らしていたその人と、偶然バーニーズで再会し(from「春、バーニーズで」)、 妻とお互いに嘘を付き合って、衝撃的な嘘を言ったほうが勝ちという他愛の無い遊びを通して、「昔、オカマと同棲していた」と事実を語り、 妻からは「昔、オジサンに体を売ったことがある」と話される(from「夫婦の悪戯」)。そして、出社の途中"衝動的に"ハンドルを切り、 高校生のときに自分の隠した時計を探しに日光東照宮へ向かう(from「パーキングエリア」)...。
・「愛のある場所」(2007):単行本未収録
新宿のオカマ"閻魔ちゃん"の家にころがりこんで恋人の"ケンジ"。ケンジとの微妙な距離が生まれ、愛のある場所について考える私...。
・「愛を誓う」(2015):単行本未収録
"閻魔ちゃん"の店に立ち寄った"筒井"。そこで二度見してしまうほどの美人の"真希"と出会う。筒井も真希もいいことがあった日だった...。
・「六つ目の角で」(2016):単行本未収録
"閻魔ちゃん"の店にいた"雅司"。棘のある言い方や態度で店の客達に反感を買っていた...。
・「愛住町の女」(2016):単行本未収録
新宿区愛住町で夫が社長を務める建築会社を手伝う"律子"。今日も新宿ゴールデン街に向かう...。
・「女たちは二度遊ぶ」(2004~2005):「女たちは二度遊ぶ」収録
11本の男女の苦い関係を描いた短編集。何もしない女、だらしない女、気前のいい女、よく泣く女などなど、どの話も人生にありそうな出会いと別れをさらりと書かれた話ばかり。別れてからそれなりに時間が過ぎても、どこかひっかかってる女性を思い出すというもの...。
・「ひなた」(2003~2004):「ひなた」収録
有名ブランドHに就職したばかりの新人広報"新堂レイ"は、海で偶然再会した同級生の"大路尚純"と昨年夏から付き合っている。その尚純は一浪した大学生で、文京区小日向の実家に家族と暮らしている。その実家に尚純の兄"浩一"と兄の嫁"桂子"が引っ越してくるとことになった。桂子はファッション誌の副編集長で、信用金庫で働いている浩一には離婚しそうな友人"田辺"がいた...。
・「東京湾景」(2002~2003):「東京湾景」収録
お台場にある大手石油会社でOLをしている"平井美緒"は、たまたま「涼子」という偽名で登録してみた出会い系サイトで"和田亮介"と出会う。品川埠頭の船積貨物倉庫で働く亮介は、恋愛をどこか冷めた目で見ていた。一方、美緒も恋愛に対して熱い気持ちを持てない。互いに惹かれあうけど、どこか相手を信じきれないままに付き合っていく。そして美緒はひょんなことから、亮介の火傷の痕から彼の過去の恋愛を知ることになる...。
・「パーク・ライフ」(2002):「パーク・ライフ」収録
社会人として1人暮らしをしている"ぼく"。満員電車の中で間違えて声をかけてしまった女性と日比谷公園でふたたび会う。彼女はいつも昼休みにスターバックスでコーヒーを買って日比谷公園でランチを食べていた...。
・「自伝小説II」(2019):書き下ろし
母方の祖父の葬式が初めて向き合った人の死だったこと、墓地での首つり死体、かわいがってくれた兄貴分の人の死...長崎での少年時代から人の死について語っていく...。
東京モノレール、品川埠頭、りんかい線、お台場、駒沢公園、桜新町、日比谷公園、そして新宿。身近な場所を舞台に自分勝手でちょっと悲しくて、さびしがりやで冷めていて、でも自己中心的な男女を描いた恋愛がたくさん描かれていた。希望があったり、そのまま先が見えなかったりと終わりかたも様々。そんな多才な吉田修一の恋愛観が伝わってきた。
それにしても、この個人全集はこれ以外にも「青春 コレクションI」、「犯罪 コレクションIII」、「長崎 コレクションIV」も刊行されている。2007年にたまたま「ランドマーク」を読んでから彼の作品にすっかりハマり、そろそろもう一度読み返したいと思っていたので、他の3冊もボチボチ読んでみようと思う。
cf. 吉田修一 読破 List
- 最後の息子 (1999)
- 熱帯魚 (2001)
- パレード (2002)
- パーク・ライフ (2002)
- 日曜日たち (2003)
- 東京湾景 (2003)
- 長崎乱楽坂 (2004)
- ランドマーク (2004)
- 7月24日通り (2004)
- 春、バーニーズで (2004)
- ひなた (2006)
- 女たちは二度遊ぶ (2006)
- 初恋温泉 (2006)
- うりずん/吉田修一・佐内正史 (2007)
- 悪人 (2007)
- 静かな爆弾 (2008)
- さよなら渓谷 (2008)
- あの空の下で (2008)
- 元職員 (2008)
- キャンセルされた街の案内 (2009)
- 横道世之介 (2009)
- 空の冒険 (2010)
- 平成猿蟹合戦図 (2011)
- 太陽は動かない (2012)
- 路(ルウ) (2012)
- 愛に乱暴 (2013)
- 怒り (2014)
- 森は知っている (2015)
- 作家と一日 (2015)
- 橋を渡る (2016)
- 犯罪小説集 (2016)
- 最後に手にしたいもの (2017)
- 泣きたくなるような青空 (2017)
- ウォーターゲーム (2018)
- 国宝 上 青春篇 (2018)
- 国宝 下 花道篇 (2018)
- 続 横道世之介 (2019)
- 逃亡小説集 (2019)
- 恋愛 コレクションII (2019)
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