大崎善生の遺稿「リヴァプールのパレット」(KADOKAWA)について。
・「リヴァプールのパレット」:
僕は医者から手遅れだち宣言された病で病室で過ごす中、何十年も封印してきた妹の記憶が蘇る。妹もまた若くして病に倒れ、余命が短いことを告げられていた。彼はカセットに録ったビートルズの音楽を病室の妹に届け続ける...。
・「僕たちの星」:
僕は高校生の頃、消極的に美術部に入った。絵を描くのは苦手だったし、そもそもあまり好きではなかったけど、次第にキャンバス作りに熱中していた。そんな僕は美術部の中で抜群のデッサン力も持つ先輩の比奈子に小樽へデッサンに行かないかと声をかけられた...。
・「彼女が悲しみを置く棚」:
僕は中目黒のスペインバルにたまたま入った。そこはママが一人で切り盛りしていた。そのママは11年ぶりに再会した女友達の多恵で、大学のころつきあっていた美也子の葬式以来の再会だった...。
・【祝辞】声なき祝辞:
声帯を摘出したことを明かし、夫人が代読した藤井聡太王位の就位式祝辞。
絶筆となった「リヴァプールのパレット」。北海道を舞台に、余命宣告を受け死期を悟る中で、かつてまだ若くして病により世を去った妹を思うこの作品。身を削りながら物語を綴っているんだけど、不思議とそこには悲壮感のようなものが感じられない。初めて読んだ「ロックンロール」、好きだった「パイロットフィッシュ」や「アジアンタムブルー」、「別れの後の静かな午後」、「優しい子よ」、「ディスカスの飼い方」と変わらない綺麗でみずみずしい文章だった。
先日、茅ヶ崎図書館のHPで借りたい本を探していたとき、ひさしぶりに大崎善生の名前があった。そして、2022年に咽頭がんのため声帯を全摘出し、2024年8月3日に下咽頭がんのため66歳で亡くなっていたことを知った。あんなに好きな作家だったのに、いままで知らなかったことが情けない。大崎さんの新しい作品をもう読めないと思うと残念でならない。ご冥福をお祈りいたします。
cf. 大崎善生 読破 List
- 聖の青春 (2000)
- 将棋の子 (2001)
- パイロットフィッシュ (2001)
- アジアンタムブルー (2002)
- 九月の四分の一 (2003)
- ドナウよ、静かに流れよ (2003)
- ロックンロール (2003)
- 孤独か、それに等しいもの (2004)
- 別れの後の静かな午後 (2004)
- ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶 (2005)
- 優しい子よ (2006)
- タペストリーホワイト (2006)
- 傘の自由化は可能か (2006)
- スワンソング (2007)
- ディスカスの飼い方 (2009)
- 聖なる夜に君は/奥田英朗・角田光代・大崎善生・島本理生・盛田隆二・蓮見圭一 (2009)
- 存在という名のダンス (2010)
- Railway Stories (2010)
- ランプコントロール (2010)
- ユーラシアの双子 (2010)
- 西の果てまで、シベリア鉄道で -ユーラシア大陸横断旅行記 (2012)
- エンプティスター (2012)
- 赦す人 (2012)
- 孤独の森 <「存在という名のダンス」改題> (2012)
- さようなら、僕のスウィニー <「Railway Stories」改題> (2014)
- ロストデイズ (2015)
- いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件 (2016)
- リヴァプールのパレット (2025)
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